二代目には、変えることと残すことに使命がある
・自分の使命を明確にする
代替わりのときに直面するのは、「変えなければいけない使命」と「残さなければいけない使命」に向き合うことです。
すべてを変えることは簡単かもしれませんが、同時にとても危険なことでもあります。そこで、わたしは、バトンを受け取るときに、変えることと残すことを明確にしようと考えました。
弊社の場合、先代が実践し、今後も残すべきものが「人材育成」。
変えるべきことが「社会的に確立した企業にする」こと。
この二つがわたしの使命だととらえたのです。
「自分の使命が何か」ということを決められると、人は力を発揮できるのではないでしょうか。また、そうすることで先代も安心されるはずです。
・いかにアイデンティティを確立するかで、プレッシャーをはねのける
「プレッシャーはないですか?」と、わたし自身、よく聞かれますが、個人的にはカリスマの先代を超えようとしなくていいのではないかと思っています。
先代がカリスマであることによって、大変そうな二代目の方はとても多くいます。ただ、先代と二代目は性格も違い、経験してきたことも違い、生きている時代も違うのです。それを無理やり同じ土俵で比べる必要はないと思いませんか?
「先代を超えよう」ということだけに着目すると、苦しくなってしまうでしょう。
多くの二代目は、アイデンティティの確立に時間がかかってしまう傾向があります。
まず、先代によってつくられてきた思い込みのブロックを少しずつ外していきましょう。そのあとに、ご自身のアイデンティティを確立するというプロセスが必要です。
わたしの場合、カットの技術があったことと、仲間がいたことがアイデンティティの確立には大きな助けになりました。
ひとりで抱えこんでしまい、孤独を感じている経営者も多いので、自分のブレーンや仲間を得ることは、とても大切なことかもしれません。
・人からの二代目へのありがたいアドバイス
わたしが親の会社に入ったのは、ロンドンで働いているときにオーナーの助言があったからです。
「若いときは一番大変なところで働きなさい」
「一番大変なところは自分の実家。失敗したら親子の縁が切れるかもしれない場所だから、若いときこそそこで働きなさい」
と言われたのです。
「つらくなったら、スーツケース持って1週間くらいロンドンに遊びに来なさい」
とも声をかけてもらいました。
ロンドンでは別の人からも、
「ゼロからはじめることと、10からはじめる苦労は違う。せっかく会社や母親がいるところでスタートできるなら、バックボーンをもっと利用したほうがいい」
と背中を押してもらいました。
日本に帰ってきてからの母は、家では優しく、会社ではとても厳しい人でした。
「たまにはほめてくれてもいいのに…」
と何度も思ったものです。
あるときパリコレの仕事をしているときに、相手方の副社長から、まだ何も相談していないときに、
「二代目は何をやってもほめられないから、気にしないほうがいいよ」
と言われたことがありました。
「成功しても失敗してもまわりからは親の七光りだと言われるのだから、好きなことをやったほうがいい」
そう言ってもらった瞬間、自覚せず肩に乗せていたプレッシャーがなくなったような気がしました。
「そっか、好きなことをやっていいんだ」
と素直に思えたのです。
わたしはこうして、いつもまわりの方にとても助けられてきました。人との出会いで勉強させてもらって、いまの自分があります。
二代目の方々お一人おひとりに、こういったターニングポイントになる出会いがあるのではないでしょうか。
わたし自身も、そういうきっかけになれればいいなと思っています。